山村塾(こめづくり もりづくり ひとづくり)

ウッドボイラーのぬくもりのもとで、快適な山暮らし。仕事の形も新たに広がって。

佐賀県佐賀市三瀬村や富士町で、有機農業やNPO法人Murark(ムラーク)の運営をされている田中一平さんと久美子さんのご夫婦。お二人とも、福岡からこの地に移住してきており、現在の自宅で暮らし始めた頃から、ウッドボイラーを設置しています。

一年中、ウッドボイラーを稼働させ、給湯と暖房に活用しているというその生活について、お聞きしました。

 

毎日、夕方にウッドボイラーを焚くのがルーティン。1台で快適な日々を実現。

元々有機農業がしたくてこの地へ来たという、田中さんご夫婦。現在は稲作を中心とし、収穫したお米を個別配送でお客様にお届けしています。

 

お二人とお子様3人が住む自宅は、2階建でとてもかわいらしい外観。中に入ると、各部屋にドアなどの仕切りがなく、ゆったりと開放感があって広々。そして、玄関のすぐそばに、ウッドボイラーが置かれていました。

 

設置しているウッドボイラーは1台で型番はS-220NSB。給湯は主にお風呂に使い、暖房は温水コンセントに市販の温水ヒーターをつなげて稼働させています。ウッドボイラーを沸かして温まった不凍液を、温水ヒーターを使って温風にして送り出すという仕組みです。リモコンを使って風力調節もできて、とても便利なのだそうです。

 

家での暖房はウッドボイラー1台で十分なのだと、一平さんは笑います。「家の機密性は特別高いわけでもないです。冬は結構冷え込んで雪も降りますが、窓をペアガラスにしていて断熱できるし、日光が入るように家を設計しているから十分暖かいんですよ」。

 

夏も冬も毎日、夕方お風呂の前にはウッドボイラーを焚くそうです。「家族がお風呂で温まれるように、夕方に薪を燃やしています。お風呂を入れたあとも、朝までじわじわと暖かさが続いていますね。温風が必要ないときは熱を出すだけのモードもできるんですよ。でも、雪に閉ざされてこもっているときは、2〜3時間に1回、薪を燃やさないとです」。

奥様の久美子さんにとって嬉しいのは、ウッドボイラーの暖房で洗濯物が乾くこと。「冬は部屋干しが多いので、ファンヒーターからの放熱で乾くのはいいですよね」。

循環ポンプをオンにすると、不凍液が回っている状態で、自然に放熱します。部屋を温めると、不凍液が冷え、それがボイラーのほうに回ってまた温まって戻ってくるのです。

 

一平さんは、「僕は竹とか細い薪を入れるので、ボイラーのお湯をよく沸騰させてしまって。そうすると温水ヒーターが止まるんですよ。そうしたら、風呂やお湯でどんどん使います。お風呂に入れてもすぐに下がらないから効率がいいですね。お湯がじゃんじゃん使えますよ」。

当初は、プロパンガスボイラーと併用するかと考えていたそうですが、その必要もなかったそうです。

また、洗面台やキッチンの蛇口からお湯が出ることも、とてもありがたいとか。「前、住んでいたところは、流し台からお湯が出なかったんです。冷たいのに慣れていたけど、お湯が出てくれて嬉しい」と久美子さん。

 

ウッドボイラーを燃やすための薪は、大工さんからの廃材や運送屋さんの廃棄する木パレットを使用。加工や塗装していない無垢のものを利用します。ウッドボイラーの稼働のため、木を切ることにもハマってしまった一平さん。丸のこやチェーンソーで木を切ることも楽しいと言います。

 

「ボイラー空間が大きいので、中にちょっとかまどっぽく薪を積むと、火がつけやすいですよ」と、着火のコツも伝えてくれました。

 

ウッドボイラーとの暮らしから、新しい夢が生まれて。

田中さんご夫婦がウッドボイラーの導入を考えるようになったのは、現在の家を建てると決めた時です。有機農業をやろうと決めてこの地に来たこともあり、なるべく自然と共存して暮らせる家にしたいという希望もあり、ウッドボイラーがフィットしたようです。

 

「山村塾経由で、農家さんが上手に使っているのを見て、魅力を感じました。ウッドボイラーをさらに効率良く使えるように、冬場もしっかり光が入る場所に家を建てました」。

 

家族の節目にもウッドボイラーは大きく貢献したようです。

 

「自宅出産したのですが、お湯をどんどん沸かせるから大活躍でしたよ」と田中さんご夫婦は笑います。今では、小学生の息子さんも薪に火をつけることもあるそうです。

 

実は導入時、野菜の貯蔵庫を造って、ウッドボイラーの温水を熱源として温度管理するという計画もあったそうです。

 

「でも、結局そこまで造り込めず。ところが、この家自体、ウッドボイラーのおかげで15度以上に保つことができているから、部屋の片隅でタネにするための芋類やしょうがを、いい状態で保存できています」。

 

最近は、NPO法人を立ち上げ、この地域の空き家の活性化なども手がけているという一平さん。空き家の管理業務や、移住希望者の移住相談やマッチングも行っています。里山暮らしを始めたい人にもこの家を見てもらうと、ウッドボイラーのことを聞かれることもあるということです。

 

ウッドボイラーが暮らしにすっかり馴染んでいる中で、一平さんには新しい展望が見えてきています。

 

「薪集めをするうちに山仕事したいなあって思うようになりました。杉や檜がある森林は、伐採して間引く必要がありますが、それって畑と一緒だなと。農家としては畑を一生懸命守りますが、山が荒れ放題だと、地域的にももったいないと感じるので、今後やっていきたいですね」と、ウッドボイラーをきっかけに、夢もどんどん広がっています。

 

さらに、環境に良いだけではなく、経済的な面も助かっていると一平さんは話します。

 

「循環型社会の形成にも、ウッドボイラーは理想的だと思います。熱をバイオマスでまかなえば、そのほかの光熱費は月1万円もかからないですし。このウッドボイラーは初期投資額も他のメーカーに比べるとそれほど高くないし、色々なものが燃やせて気楽に使えるから、今後使ってくれる人が増えてほしいなあと思いますね」。

 

(参考)

・NPO法人Murark(ムラーク)

https://murark.com/

・一平農園

https://www.facebook.com/ippei.net/


取材・執筆・撮影:奥野 妙子(プロボノライター)